“ 涙の訳 ”

人は“深さ”に愛を知る。

そう思っていたし、今でも正しいと思ってもいる。

約12年間、育ててくれた祖母。

最後の別れは寂しかった。

僕はその時涙していた。

悲しかったから。

昨日の事について話したかったし、

今日の事も、明日の事も、

夕飯についても話したかったから、

僕は祖母と過ごした“深さ”に涙をしてたと思う。

それから8年後、母が死んだ。

僕が生まれて2年以後、母の顔は見ていない。

母の名前も顔も覚えていない。

過ごした記憶も愛も覚えていない。

愛の“深さ”に心が動くと思っていたのに、

僕はなぜ今、涙を流しているのだろう。

 

 

「メロディー」

彼女の脳内にはピアノのメロディーが流れる。

彼が後ろにいることにトキメキを覚え始めていた。

彼の匂い、腕の温もり、呼吸をする音、

彼女の後ろから感じるものがある。

相性は最悪だと思っていた。

足で漕ぐボートではお互いのリズムが合うことがなく、公園で写真を撮る時には噴水が彼女を濡らしているのに。

朝はパン派の彼氏。コーヒーを飲むだけの彼女。

麺は固めと普通。

ホラーが好きな彼氏。ロマンスが好きな彼女。

 

トキメキを感じる今、愛は優しさに触れていた。

 

長い時間、湖に放流してつまらない話で時間を潰した楽しい思い出。

噴水で濡れた彼女をみて、彼氏が噴水の池に飛び込んでくれた笑える話。

パンを食べた後、彼女のコーヒーを一口飲む彼。

ラーメン屋を出た後、手を繋いでくれた彼。

嫌いなホラー映画を観た後、涙をする私をそっと抱きしめてくれた彼。

 

彼女の脳内にはピアノのメロディーが流れる。

ただトキメキを覚えながら、

愛を感じる話である。

 

 

 

 

”夜のバス”

妄想と理想の違い。

過去と思い出の違い。

理由と原因の違い。

現実と今の違い。

好きと嫌いの違い。

愛と恋の違い。

僕は彼女の隣に座っている。バスの中で。

僕が眠る前に彼女が先に眠った。

すぐに僕も目を閉じた。

次に目を開けた時、時間は1時間経っていた。

彼女を見ると、僕の方向に頭を向けている。

髪の色は薄いピンク色で、果物の香りがしていた。

すると車掌さんがアナウンスを始めた。

席が空いているから、移動して良いと。

僕はこの席のままでいたいと思った。

でも2つ後ろの窓際に座る事にした。

僕の妄想と彼女の現実は違う。

僕はヘッドホンを耳に、音楽を流した。

そして外の景色を一度眺め、

僕はまた眠りに着く。

 

 

「似合う男」

お前は黒の服がお似合いだよ。

正しい着飾り方も知らないで、

光が輝く場所だとも知らないで、

夜の道をウイスキーで満たすままでいる。

生まれる前から存在するこの道や建物と自分の生きてきた時間を比べて僕は自分の愚かさを感じている。

僕に何が足りないのか。

なぜ満たされているものに気付かないのか。

それは誰も教えてくれない。

自分の努力も涙も声も意味がない。

それはただの自分自身の欲望だから。

君に縋ろうとする心が、時計の針を錆びさせる。

 

世界の広さに疑問を抱く時があった。

今思えば電車のホームでイヤホンをして君と電話をしてる時から、僕と君だけの話だったのかもしれない。

花柄の服が似合う君の側で僕は輝いていた。

僕は自分を知ろうとしなかったから、

君が輝いていることに気づかなかったんだ。

だからお前は黒の服がお似合いだ。

正しい着飾り方も知らぬままに。

 

 

「瞳の奥にあるもの」

海の高鳴りを感じて、君は静かさを求めている。

 

そこには泣きわめく子供も人の足音も聞こえない。

 

まるでパレードを嫌がるかのように、ヨットはただ揺れていた。

 

窓の外に何があるのか知りたい気持ちが僕はある。

 

君の温もりを知りたいし、胸の鼓動も感じたい。

 

それなのに、君の心の扉には固く結ばれた鍵が掛かっている。

 

夜の街が君の色に染まる。

 

君が世界を照らすから。

 

みんなは君を太陽のようだと言う。

 

そんなはずがないのに。

 

魔法には準備が必要なんだ。

 

女の子がメイクするのと同じように。

 

夜更かしするし、朝は寝坊する。

 

それにホラー映画は嫌いだし、寂しい時は涙する。


それでも、太陽のように朝を迎える君に僕はまた恋をしてしまうのだろう。

「隣り」

誰かとの温もりを感じる時、心臓の鼓動は時間と同じように時を刻むのかと錯覚する。

そして無限に広がる草原が有限なソファーの広さに叶わないと知る。

君が眠りについてしまうと共に朝を迎えられるのか不安を感じる。

未来を想像できる相手が運命だと思ってた。

でも気づけば今、君といる。

お先真っ暗で、どんな人生を歩むのか分からないけど、君と今を過ごしたい。

声が出せなくなって、目も見えなくなる。

いずれは耳も聞こえなくなる。

君の温もりも触感も感じなくなる時が来るはず。

でもそれはきっと妄想と結果に過ぎない。

忘れる頃に思い出せば良い。

約束の地はいつまでも僕らを忘れないから。

「僕のお話」

君宛に書く手紙は誰も興味はない。

君も知らないお話かもしれないし、どんなに良い話でもそれはただの紙っぺらとおんなじだ。

同じ手紙を有名人が書いたとしたら、

砂漠のど真ん中に埋まっていたら、

ピラミッドの壁画に刻まれていたら、

世界はきっと騒ぎ立てる。

貧しいガキから、天に届きそうなバカまでもがこの手紙を凄いと言う。

世の言葉には物語がない。